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りっぱなおとなになれなかった

40才くらいの独り言

隣の家の21才男子は阪神大震災のあった1995年生まれ。

 隣の家の21才男子は阪神大震災のあった1995年生まれ。

 
震災で我が家はペッタンコになり、がれきの中を這い出て外に出た。
外で家族全員の顔をみて無事を確認し安堵した。
安堵した数秒後、向かいのアパートから全裸の若い男性が出てきた
多分大学生。神戸大学の学生だったんじゃないかな。
彼は朝からシャワーを浴びていたらしく、すごい揺れて夢中でアパートから脱出し
服なんか着てる暇は無かったと言っていた。髪もびちゃびちゃでひどいもんだった。
我々はウチの隣の家の赤ちゃんが産まれたばっかりなのを知っていた。
わたしら家族と同じタイミングで外に出てきた隣の一家
おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、息子0歳を見てほっとした。
おばあさんに抱かれていた赤ちゃんはふにゃふにゃとあくびをしていて、
我々と隣の家の家族と全裸の男性は、その赤ちゃんが生きていて無事だったことに涙した。
そういえば、その全裸の男性は、その後家に戻り
着替えてオートバイでどっかに避難したみたい。
どうなったか知らないなー。
 
まあいいや、その赤ちゃんだった彼も今は21才。
立派な大学生になっているみたい。
みたいっていうのは、わたしと彼の生活リズムが全く違うらしく
あんまり彼を見たこと無いから。
挨拶もしたこと無い。
どんな顔なのかも本当に分からない。
 
でもなぜ彼が大学生なのかを知っているのかと言えば
隣の家の家族の声がバカみたいに大きく。いろいろ筒抜けだからだ。
 
隣の家は大家族で、おばあさんは無くなったようだが
おじいさん、お父さん、お母さん、息子21才、弟高校生。
男兄弟の2人は、必ず家に帰ると「ただいまー」と叫ぶ。
誰かが「おかえりー」と言うまで何度も叫ぶ。
庭にて作業をしているおじいさんや台所で料理をしているであろうお母さんが
「おかえりー」と返事をするのだが、誰もいなくて返事が無い時
わたしが代りにおかえりーを言いたくなるくらい、何度も。
 
そう彼らは可愛いのだ。顔も知らんけど。
 
隣の家のお母さんの口癖は、とにかく「宿題やったのー?」だ。
いまは主に弟に向けて言われている。
彼らは素直に「やったー」だの「無い」「後でやるー」だの答えている。
勝手に我々家族もその声に反応し、「あの言い方はやってないなー」
などと想像して笑っている。
 
数年前、彼が高校生の時分、彼女を家に連れてくることになったらしく
何を着たらいいだの、その日はおじいちゃんは出掛けてくれだのの会話が
いつも通り筒抜けでウチの家族は爆笑した。
そしたらその何ヶ月後に衝撃の会話があった。
普段はあまり存在感のないお父さんであろう声が響き渡った
「高校生の分際でセックスなんかするからこんなことになるんやー!」と。
どうも前に連れてきた彼女を妊娠させたかもしれないらしく
「責任をとれー」だの「どうする気なんだー」と漫画のようなセリフが聞こえてきた。
ウチの母は最高に面白がっていて、わたしが居ない時の隣の会話をメモり報告してくれた。
面白かった。結局、彼女は生理が遅れているだけだったようだが
その数日のやりとりは、ああー震災の時に産まれた彼も大人になったんだなと
勝手に我が家では感慨深かった。
 
 
隣の家の前の道路にはみ出し気味に自転車が置かれているときは
近所に住むいとこの男の子が来ているらしく
へたくそなバンドの練習をしているであろう音やら
ゲームをやっているであろう会話やら、いろんな音が聞こえてきてた。
いまはその音は無くて、自転車の代わりにでっかいバイクがたまに停まっていて
彼一人で夜中にぶるんぶるんと爆音でバイクを吹かして
どっかに行ったり返ってきたりする様子が何となくうかがえる。
なんかバイトばっかりやっているみたいで
弟がいる気配は感じるが
彼の気配はそのたまに聞こえるぶるんぶるんの吹かし音があるときだけだ。
夜中に出入りしているからか、彼の「ただいまー」は最近聞くことが無い。
彼はこれから就職活動をして、出ていっちゃうのかなと勝手に想像したりする。
顔も知らない彼だけどちょっと寂しい。
 
神戸の震災から○○年経ったというたぐいのニュースを見たりすると、
がれきの中から出てきた赤ちゃんがもう○○才なのかと置きかえてしまう。
 
昨日たまたま、神戸の震災を振り返ったニュースをしていたので
隣の彼のことを思い出したのだ。
 

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たぶん隣の家の彼は家を出ていく。

我が家には兄夫婦に子どもが産まれ、近所に住んでいるから

しょっちゅうウチに姪っ子と甥っ子が来るようになった。

ウチの両親は離婚した。

 

周りは変わった。

けどわたしは何も変わらずこの家に住み続けている。